不動産の名義変更(生前贈与登記)をおすすめします。
【不動産の名義を変更するには?】
自宅を家族の名義に変更する場合、実際に不動産を家族へ譲渡する必要があります。一般的に、家族間で不動産を譲渡する場合、以下の2つの方法が考えられます。
1.「贈与」
2.「売買」
上記の2つの方法の違いは、不動産を譲渡したときに、対価としてお金を支払うかどうかです。対価としてお金を支払わずに不動産を譲渡してもらう場合は「贈与」となります。一方、対価としてお金を支払って不動産を譲渡してもらう場合は「売買」となります。
したがって、不動産の名義を変更するには、実際に不動産を家族に「贈与」するか「売買」する必要があります。
税金(相続税)対策として、自宅を家族の名義にする変更する場合、対価としてお金を支払ってしまうと、相続税の課税対象となる相続財産は減りません(むしろ相続財産の評価額は上がってしまいます)ので、一般的には、相続税の課税対象となる相続財産を減らすために、対価としてお金を受け取らない「贈与」によって、不動産の名義を変更することが多いと言えるでしょう。
【不動産を生前贈与する際に注意しておきたい事とは?】
相続対策の中でも税金(相続税)対策として自宅を家族の名義に変更する場合、相続発生後に不動産の名義を変更(相続登記)をした場合にかかるコストと相続発生前(生前)に不動産の名義を変更(生前贈与登記)する場合にかかるコストを比較して、対策を考える必要があります。
単純に、登記手続をする際に法務局に納付する税金(登録免許税)のみで比べると、以下の通りとなります。
1.「贈与」→税率:20/1000(2%)
2.「相続」→税率: 4/1000(0.4%)
上記の通り、「贈与」により不動産の名義を変更する場合、「相続」により不動産の名義を変更する場合に比べて、5倍の税金を納める必要があります。
例えば、固定資産税評価額2000万円の不動産の名義変更をする場合、法務局に納付する税金(登録免許税)は、それぞれ以下の通りとなります。
1.「贈与」→2000万円×20/1000(2%)=40万円
2.「相続」→2000万円× 4/1000(0.4%)= 8万円
この他にも、「贈与」により不動産の名義を変更する場合、「贈与」を受ける人(不動産をもらう人)は、贈与税や不動産取得税等の税金を支払う必要があります。
贈与税には、控除や特例の制度がありますので、これらの制度を上手く活用しながら、生前贈与をするべきかどうかを検討する必要があるでしょう。
成年後見制度をおすすめします。
【不動産の所有者が認知症になってしまうと…】
不動産の所有者が認知症になってしまうと、所有する不動産に関する様々な契約を締結することが難しくなってしまいます。なぜなら、認知症が進んでしまうと、契約をするときに必要な判断能力を喪失してしまっていることが多いからです。
たとえば、アパートの大家さんが認知症になってしまい判断能力を喪失してしまうと、せっかく入居を希望する人がいても、新たに賃貸借契約を締結することができなくなってしまいます。
また、不動産の所有者が認知症になってしまうと、当該不動産を売却することもできなくなってしまいます。
【認知症により判断能力が万全とは言えなくなったら…】
認知症により判断能力が万全とは言えない状況になってしまったら、財産の管理や契約等の法律行為を本人に代わって行う人が必要となります。
一般的に、このような場合は、配偶者や子供などの家族が本人の生活を支えていることが多いと思いますが、不動産の所有者が認知症などにより判断能力を喪失してしまった場合、たとえ配偶者や子供であっても、本人に代わって本人が所有するアパートの賃貸借契約を締結したり、自宅を売却することはできません。
そこで、本人に代わって財産の管理や契約などの法律行為を行う人が必要となります。
具体的には、成年後見制度を利用します。成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に申立てをする必要があります。申立てを受けた家庭裁判所は判断能力を喪失してしまった人(成年被後見人)のために、財産の管理や契約などの法律行為を本人に代わって行う人(成年後見人)を選任します。
家庭裁判所に選任された成年後見人は、成年被後見人(本人)に代わり本人が所有する不動産に関する賃貸借契約や売買契約を行うことができます。
したがって、不動産の所有者が認知症になってしまい判断能力を喪失してしまった場合は、家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所によって選任された成年後見人が売買契約を締結することにより不動産を売却することが可能となります。
なお、不動産の所有者が自己居住用に利用している(利用していた)不動産を売却する場合には、成年後見人が選任されているとしても、家庭裁判所による許可が別途必要となりますので、注意が必要です。
任意後見制度をおすすめします。
【成年後見制度を利用した場合】
認知症などにより実際に判断能力を喪失してしまった場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申立てることができます。
家庭裁判所に成年後見人の選任を申立てる際に、成年後見人の候補者を申立書に記載することができます。ただし、最終的に成年後見人を選任するのは家庭裁判所ですので、申立書に記載した成年後見人の候補者以外の人物(弁護士や司法書士等の専門職)が成年後見人に選任されることもあります。
このように、成年後見人の選任を申立てる場合は、必ずしも候補者が成年後見人に選任されるとは限りません。また、本人が既に認知症などにより上手く意思表示ができなくなってしまっている場合は、本人の希望通りの人物を候補者とすることが難しくなっているかもしれません。
これに対し、任意後見制度を利用すれば、自分の希望する人物に後見人になってもらうことができます。
【任意後見制度を利用すると・・・】
成年後見制度は、認知症などにより判断能力を喪失してしまった場合に家庭裁判所に申立てをすることにより成年後見人を選任してもらう制度でしたが、反対に任意後見制度を利用するには、契約時に十分な判断能力を有していることが必要となります。
なぜなら、任意後見制度を利用する場合、将来、後見人になる予定の人とあらかじめ公正証書により契約を締結しておく必要があるからです。
なお、実際に後見が始まるのは、本人の判断能力が衰えてしまった後になります。本人の判断能力が衰えてしまった段階で、家庭裁判所に別途申し立てを行い、後見人を監督する人(任意後見監督人)を裁判所が選任した段階で、後見がスタートします。
このように、任意後見制度を利用する場合、本人が自由(任意)に後見人及び後見人にお願いしたいこと(後見の内容)を自由に決めることができるので、自分が判断能力を喪失してしまった場合、誰に何をしてもらいたいかを本人が任意(自由)に決めておくことができます。
ただし、任意後見は、実際に判断能力が衰えて家庭裁判所に申立てを行い、任意後見監督人が選任されてからでないと利用することができませんので、元気なうちから財産管理を任せたいというような場合には、財産管理契約や見守り契約等契約を締結しておく等の対策が別途必要となります。
遺言書の作成、家族信託(民事信託)
【法定相続とは?】
亡くなった人を被相続人、亡くなった人の財産を承継する人を相続人といいます。
被相続人の相続人が誰になるかは、法律(民法)によって定められています。これを法定相続人といいます。また、相続人が数人いる場合、被相続人の財産は、相続の開始(死亡)と同時に相続人全員の共有となります。共有の際の各相続人の各々の持分の割合も法律(民法)により定められており、これを法定相続分といいます。
つまり、故人が何の対策もせずに亡くなってしまった場合、故人の相続財産は法律(民法)に従って、相続人に分配(共有)されてしまうのです。
しかしながら、故人が財産の分配方法について、何らかの意思表示をしていた場合は、この限りではありません。相続人以外の第三者にも財産の分配をすることが可能になります。
ただし、相続発生後に故人の意思を故人に直接確認することができないため(亡くなっているので直接聞くことができません・・・)、そこで、法律(民法)は意思表示の方法を厳格に定めました。それが遺言です。
遺言を残しておくことで、死後の財産の分配方法を指定しておくことが可能となります。
【遺言や家族信託を利用すると・・・】
遺言を作成しておけば、法定相続分とは異なる割合で相続人に財産を相続させることができますし、相続人ではない第三者に相続財産を分配することも可能です。
また、遺言の他にも、死後の財産の承継者を指定する方法があります。それは、信託を利用する方法です。信託契約をする際に、信託終了後の信託財産の帰属先を決めておくことができるので、遺言と同じように死後の財産の承継者を指定することができます。
さらに、信託を利用すれば、遺言ではできなかった二次相続以降の財産の承継者についても、指定することができるようになります。
例えば、先祖代々所有する不動産について長子承継をさせたいという希望がある場合です。遺言を利用した場合、不動産の承継者を長男と指定することができますが、長男死亡後は、長男の長男(つまり、孫)を不動産の承継者に指定することはできません。
ところが、信託(家族信託)を利用すれば、上記の事が可能となります。信託契約をする際に、二次相続以降の資産の承継者をあらかじめ指定する条項を設けておけば、二次相続以降の資産の承継者を指定することができるのです。
相続に関する事情は、個人や家庭により様々だと思います。どの方法を利用するかは、それぞれの事情に応じて十分ご検討ください。
遺言書の作成にあたっては、以下の内容を踏まえておく必要があります。
【遺言書の種類】
普通、遺言書を作成する方式は、以下の3種類の中から選択します。
①自筆証書遺言
②公正証書遺言
③秘密証書遺言
上記の中で、②公正証書遺言及び③秘密証書遺言の作成については、公証人が関与します。
①自筆証書遺言作成は公証人が関与しないため自分一人で遺言書を作成することができますので、気軽に遺言書を作成することができます。
ただし、法律の規定に従った書き方をしないとせっかく作成した遺言書が無効になってしまいますので、自分一人で遺言書を作成する場合には注意が必要です。
②公正証書遺言は、遺言書を公証人が作成します。
③秘密証書遺言は、作成された遺言が間違いなく本人が作成したことを公証人が証明する方法ですが、②公正証書遺言と違って公証人は遺言書の中身には関与せず、作成された遺言書も公証役場で保管されませんので、自分で保管をする必要があります。
【お勧めの遺言書作成方法は?】
せっかく、遺言を作成するのであれば、公正証書遺言の作成をお勧めしています。その理由は、公正証書遺言では、他の方法と違い下記のようなメリットがあるからです。
形式不備ににより遺言が無効になるおそれがほとんどない
家庭裁判所による検認手続が不要
遺言の原本が、公証役場に保管される
遺言を破棄、隠匿、改ざんされるおそれがない
そもそも、せっかく遺言を作成しても、死亡後に遺言が発見されなければ意味がありません。自分で保管する場合、どうしても紛失等のリスクがありますが、公証役場で保管をしてもらえれば、紛失のリスクを低減できます。また、公証人が遺言書の内容作成に関与するため、遺言が無効になる恐れがほとんどなく、家庭裁判所による検認手続も不要となります。
大至急、遺言を作成したい等の理由がある場合には、自筆証書遺言を作成するのもよいと思いますが、後々の事を考えれば、最終的には公正証書遺言を作成するのがよいでしょう。
なお、自筆証書遺言を作成する場合には、下記の点にご注意いただきながら、ご作成ください。
遺言者(作成者)が、全文を自書していること
作成した日付が自書されていること
遺言者の署名があること
押印されていること
民法968条1項
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
成年後見制度、家族信託(民事信託)をおすすめします。
【アパートの大家さんが認知症になってしまうと・・・】
不動産の所有者が認知症になってしまうと、所有する不動産に関する様々な契約を締結することが難しくなってしまいます。なぜなら、認知症が進んでしまうと、契約をするときに必要な判断能力を喪失してしまっていることが多いからです。
アパートの大家さんが認知症になってしまい判断能力を喪失してしまうと、せっかく入居を希望する人がいても、新たに賃貸借契約を締結することができなくなってしまいます。同様に、大規模な修繕に必要な契約も締結することもできなくなってしまいます。
【既に認知症になってしまった場合】
既に認知症になってしまい判断能力を喪失してしまった場合は、成年後見制度を利用します。成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に申立てをする必要があります。申立てを受けた家庭裁判所は、判断能力を喪失してしまった人(成年被後見人)のために、財産の管理や契約などの法律行為を本人に代わって行う人(成年後見人)を選任します。
家庭裁判所に選任された成年後見人は、成年被後見人(本人)に代わり本人が所有する不動産に関する賃貸借契約等を行うことができます。
ただし、成年後見人は成年被後見人(本人)の財産を守ることが大きな使命の1つとなりますので、大規模な修繕や建替え等を行うことが難しくなってきます。
そこで、元気なうちに(認知症などにより判断能力を喪失してしまう前に)対策を講じる必要が生じるのです。
【アパートの大家さんが認知症になる前にしておきたいこと】
上記のように、認知症などにより判断能力を喪失してしまった後では、財産を有効に活用することが難しくなってしまいます。
そこで、認知症に備えて、元気なうちに対策を講じておく必要があります。
このようなケースで有効なのが、家族信託(民事信託)です。不動産の所有者が元気なうちに信頼できる家族に不動産の管理を任せてしまう方法です。
例えば、アパートの大家さんである父を委託者、大家さんの長男を受託者として、アパートを信託財産とする信託契約を締結します。信託契約の対象となる財産は自由に決めることができますので、所有する全ての不動産を対象とすることもできますし、特定のアパートのみを対象とすることもできます。
また、契約の内容によって、アパートの管理だけでなく処分(建替えや売却)についても受託者(長男)に託すことができます。信託契約を締結しても受益者を父としておけば、家賃収入はそのまま父が確保することができます。
信託契約は、委託者である父が認知症になった後でも有効ですので、もともとの所有者である父が認知症になった後でも、受託者である長男が自由にアパートの管理や処分をすることができるのです。
ただし、信託契約を締結するには、十分な判断能力が不可欠ですので、信託契約は元気なうちから締結しなければなりません。
遺言書の作成、家族信託(民事信託)をおすすめします。
【子どもがいない夫婦の場合・・・】
遺言を作成しておけば、法定相続分とは異なる割合で相続人に財産を相続させることができますので、遺言を作成することで残された配偶者に法定相続分より多い財産を相続させることができます。
特に、子供のいないご夫婦の場合は、亡くなった人の親や兄弟姉妹が相続人になります。遺言がない場合、残された配偶者は義理の親や義理の兄弟姉妹と遺産分割をするための話し合いをしなければなりません。いくら義理の親や義理の兄弟姉妹と仲が良いとしても遺産分割の話し合いをするのは残された配偶者にとっては、少なからず負担になるものです。
遺言を作成しておけば、遺産分割協議は不要となりますので、残された配偶者の負担を少しでも軽くするためにも、遺言を残しておいた方がよいでしょう。
【配偶者が認知症の場合…】
配偶者が既に認知症になってしまい判断能力を喪失してしまっているような場合、遺言を作成して残された配偶者に法定相続分より多い財産を相続させたとしても、有効に活用されるかどうか心配です。
このような場合は、信託を利用することが、残された配偶者の生活を守ることに繋がります。例えば、本人を委託者、信頼できる子供を受託者、残された配偶者の生活のために使ってほしい財産を信託財産として、信託契約を締結します。このとき、当初の受益者を本人、本人死亡後の受益者(第2受益者)を配偶者としておきます。
こうすることにより、受託者である子供が認知症の親のために、信託された財産を管理することができますので、残された配偶者の生活を守ることができるのです。